今回は少し個人的な体験を書くことにしました。
私は東京の板橋区にある何の変哲もない、私鉄沿線の街に生まれ育ちました。駅前には大型のスーパーがあり、大通りの両側に個人商店が連なる、典型的な郊外の街です。
魚屋、八百屋、米屋、肉屋、金物屋、和菓子屋、銭湯などが立ち並び、昭和の風景を形づくっていました。
もちろんその中に本屋もありました。今思えば10坪ほどの小さな店です。私がこどもの頃、よく買っていたのは、幼児雑誌、学習雑誌、児童書などです。いわば文化も娯楽もこの本屋さんから発信されていたといってもいいかもしれません。
私が小学生の頃のことですが、この本屋のご主人がよく我が家に出入りしていました。小学館から発行された『ジャポニカ百科事典』を届けるためです。
最初は「お試し」のような形で3巻ほど置いていったのですが、この事典は本冊19巻、別冊1巻あります。3巻だけでは意味がないのですが、そこがうまい商売のやり方です。3巻だけで断る家もあったと思いますが、我が家は20巻すべてを買いました。
低学年のうちは何が書いてあるのかはさっぱりわかりませんでしたが、年齢が上がるにつれ、少しずつ「読む」ことができるようになり、少年期~青年期にかけての愛読書となりました。今ならすぐにネット検索でしょうが、私の場合はジャポニカを引くことが知識への入り口となりました。
振り返れば、本屋さんと読者の関係はそれほど密であったのです。
今、ネット書店に頼めば、本は宅配便が届けてくれます。
しかし、このような本との出会いや情緒性はなくなりました。
今から40年以上前の出来事です。