Column & interview

インタビュー

電子書籍の制作と流通の基本
株式会社スタジオ・ポット 代表取締役 沢辺 均氏

始めるべきだとは分かっていながら、ハードルが高く感じられ、なかなか踏み出せない電子書籍化。押さえておくべきポイントとは?そして実際に、電子書籍は売れるのか? ポット出版代表の沢辺均氏に、制作、配信、販売管理、そして売り上げ事情まで、電子書籍の基本と現状を聞きました。

電子書籍における“制作と流通”の基本

ヒット作が売り上げをけん引した

ポット出版では、2010年ごろから本格的に電子書籍の販売に取り組んでいるとのことですが、手がけてきたこれまでの感想、手応えはいかがでしょうか

当社の電子書籍事業について言うと、特定のタイトルの売り上げが好調だったことで十二分にペイしている状況です。ある特定タイトルというのは、ひとつは田亀源五郎さんというゲイの漫画家さんの作品。もうひとつは、雨宮まみさんという2016年に亡くなった作家の自伝的エッセイです。

田亀源五郎さんが長らく書いていた漫画は、もっぱら男同士のエロをテーマにしたもの。この方は“ゲイ雑誌”に長く作品を発表していたのですが、数年前から双葉社の漫画誌「月刊アクション」に『弟の夫』という作品を描いていました。これはまったくエロが出てこない漫画で、3月にはNHKでテレビドラマ化もされています。この田亀さんのエロ系の紙の漫画は、一部の例外を除けば、ほぼポット出版で販売していたんです。通常の漫画であれば価格は6~700円ですが、通常のスタイルではなく、2~3000円に設定し、箱も付けて販売していました。

だいたい15年ほど前からずっと、そのようなスタイルで販売していましたが、これらを、遡って全部電子化したんです。「毎月1冊」のような形で、15カ月ぐらい続けました。ダウンロード数はそれぞれ“4ケタ”に届くかどうか、という実績をあげたと思います。値付けは、紙の本の8割ぐらいに設定しました。たとえば1000ダウンロードされたら、著者印税を計算に入れなければ、1冊あたりポット出版に1000円程度入ってくるので、トータルの売り上げは100万円ですよね。それが15カ月続いたわけです。EPUBで、レイアウトが固定的に表示される「フィックス形式」を採用していましたので、つくるのは簡単なので電子化にまつわる作業は、社内の手が空いている人間が担当しました。少々面倒だったのは、エロの箇所の「ケシ」の作業。紙と比べて、電子は電子書店各社がいろいろなアダルト基準を作っていますので、「ケシ」もやり直す必要が生じました。この部分が、一番手間がかかりました。

もうひとつの例として挙げた雨宮まみさんの本は、5年ほど前に出版した『女子をこじらせて』。この本は、“こじらせ”という言葉が流行語大賞の候補になったこともあり、紙でも売れました。この本も、電子書籍で4ケタ以上はダウンロードされています。ポット出版では、例外的にこの2作品がありましたので、内心ニンマリなんです(笑)。投下した作業量に見合ったリターンが得られましたから。ただ、これらの事例を除けば、電子書籍については「それほど……」という状況なのも事実です。

電子書籍とキャンペーン

割引キャンペーンには参加すべき?

電子化する本の基準というのはあるのでしょうか

基本的には、著者に「嫌だ」と言われない限りは全部、電子化します。ただ、著者の方に嫌がられるというケースは、昔はありましたが、最近はほとんどありません。これについては大手の出版社の方も同様のことを言っているので、そうした傾向にあるのだと思います。おそらくですが、電子化について、どのように対応していいか分からなかった作家が、「電子化しても平気なんだ」と意識が変化してきたのではないでしょうか。「電子化はしておいた方がいいんだろうな」という認識になっているのかもしれません。ただ、どのようなタイトルが電子化して売れるのか? という問いについては、これまでの経験からは、コミックを除けば、法則性は見つけられていません。

プロモーションはどのようなことをされているのでしょう

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