インターネット以来のビジネスモデル革命を引き起こす可能性があると言われる「ブロックチェーン」。プラットフォーマーに頼らず、改ざんのない状態でデータを管理することのできる基盤として、これまでにないビジネスモデルを創出する可能性があるといわれている。出版のビジネスモデルは、ブロックチェーンの登場でどう変わるのか。今回は、コンテンツジャパン代表取締役CEOの堀鉄彦氏に、ブロックチェーンと出版業界の今後について聞きました。
Amazonが出版ビジネスに与えたインパクト
Amazonの登場でインターネット化が始まった
はじめに、インターネットの登場やデジタル化が、出版業界に与えた影響について教えてください
インターネットが始まってから、コンテンツビジネスの構造は、大きく影響を受けました。いったい何が起こったのかというと、まずは流通の垣根が崩れ始めました。デジタル化以前は、コンテンツの種類ごとに流通が分かれていたのですが、その垣根がなくなり、1つのプラットフォームであらゆる種類のコンテンツを扱えるようになりました。
出版プラットフォームは、それまで、強固な金融システムと物流システムに守られた、異業種からの参入が難しい業界でした。それが崩れ、異業種の参入も容易な業界となったわけです。Amazonなどによる「紙の本をネットで販売する」という形で変化が始まり、コンテンツそのもののデジタル化によって、それが加速したといえるでしょう。
具体的にはコンテンツとパッケージ、流通など、不可分だった出版の各要素が“アンバンドル”され、同時にITプラットフォーマーの力で“リバンドル”され始めました。
それまでは、書籍で言えば紙というパッケージに固定され、流通も書店経由でと基本的には、決まっていました。つまり、書籍において、コンテナ(紙)とコンテンツは、不可分でした。しかし、書籍がデジタル化されると、1章ずつなど自由な組み合わせで販売することなどが、簡単になりました。そして、パッケージングの再構成にかかるにもコストが非常に少なくなりました。パッケージングの自由度が増したことにより、読み放題のサブスクリプション型など、紙の書籍では、できえなかった形のサービスの構築も容易になってきました。
また、売り場は、スペースの制約から解き放たれました。スペースの問題から品ぞろえに加えられなかった既刊の書籍を、いつでも買える状況となりました。販売データの解析も以前と比べてはるかに容易になって、表紙を何種類も用意するなど、データに基づくパッケージングの工夫なども始まりました。
そして、データ解析できるプラットフォーマーの優位性が、加速度的に高まっていくわけです。
電子書籍では「どんな人がいつ買っているのか」ということを、精緻に把握することも可能になりました。どのように組み合わせられれば、ユーザーに喜ばれるのか、売り上げがあがるのかの把握が、従来と比べて非常に容易に行えるようになり、解析のための使いやすいツールも、用意されるようになってきました。
そうすると、データ解析をビジネスの中で行なう会社と、行わない会社では差が出てきてしまいます。データ解析の有無が、ビジネスの“力の差”として直接出始めてしまうわけです。
どのデータを外に提供するかの意思決定は、データを集める会社がしますから、それ以外の会社は、データを集める会社のいうことを聞かないと経営の判断ができません。つまり、分析をするためのデータがたくさん集まる会社の立場が、どんどん強くなるということです。そうした会社がいわゆる「プラットフォーマ―」であり、中でもAmazonが代表的な存在です。
プラットフォーマ―による「データ独占の時代」というのは、要するに、「デジタルプラットフォーマ―の優位性が加速していく時代」です。それは今も続いています。そして残念ながら、対抗する有効な方策を、ほとんど打ち出せずにいるというのが現実でしょう。これまでの出版の形、紙の本の作り方を前提としたワークフローやビジネスモデル、もっといえば読者やクリエイターとの接点のあり方にこだわっている間に、外側の世界はどんどん変わっていったのだと思います。出版ビジネスは、基本が流通や読者との接点をアウトソースするビジネスモデルであった。そういうことも、デジタルファーストのビジネスモデルへの対応を、遅らせることにつながったと思われます。
電子書籍も「紙の書籍のデジタル化」から始まったことで、なかなか新しいビジネスモデルを開拓できませんでした。コミックでは、いろいろな試行錯誤の末、新たなビジネスモデルが確立しつつあります。しかし、それ以外の電子書籍について、デジタルファーストのビジネスモデル構築は、依然課題となっているわけです。
それは、いい本とは何か、読みやすさとは何か、分かりやすさとは何かといった問題ともかかわりがあるのかもしれません。デジタルファーストの視点での「いい本」を追究する努力の中から、新しいビジネスモデルが、生まれてくることを期待したいところです。
発想を変えれば思いもよらないリパッケージング、または編集の手法も登場するかもしれません。そして、思いもよらない形の顧客基盤が生まれてくるかもしれない。その過程では、人間の力で編集するだけではなく、データ解析や、人工知能などのテクノロジーを利用することが、必要不可欠になるでしょう。