Column & interview

コラム

BC号航海日記18
電子書籍における「情緒的価値」と「機能的価値」(2)

今、日本人の50歳未満の人でユニクロの服を一着も持っていない人は珍しいのではないでしょうか。かく言う私も今まで数多くのユニクロ製品を買ってきましたし、今もよく着ています。

なぜユニクロを着るのかといえば、機能的価値にすぐれ、ほどほどの情緒的価値をもっているからだと言えます。

フォーマルな場面で着る服ではありませんが、日常着としてはこれほど便利なものはありません。まさに日本の服飾史に革命を起こし、社会のインフラとなりました。

では、そのあおりを喰ったのは誰でしょうか。

具体的社名を挙げてしまいますが、オンワード樫山、三陽商会、サンエーなどかつてドメスティックブランドとして一定の顧客がいた服飾メーカーです。

移ろいがちな流行や顧客の情緒を満足させるものを常に提供するのは至難の業です。機能的価値を持つ商品は簡単にネットでスペック比較され、コストパフォーマンスが最優先されます。情緒的価値は情報の非対称性がなくなった現在、商品化、パッケージ化するのが難しくなっています。

幾層にも分かれていた、顧客がどんどん平準化もしくは二極化してきているのが現状です。

また、前置きが長くなってしまいました。

では電子書籍と紙書籍について考えてみます。書籍も服飾と同じく多品種小ロットという点で類似商品といえます。

ユニクロのようなインフラ的コンテンツはありませんが、出版界でも『ONE PIECE』『火花』『嫌われる勇気』などメガヒットコンテンツは確実に存在します。

その一方で、出版したにも関わらず、まるで売れないというコンテンツも数えきれないくらいあります。むしろそちらのほうが圧倒的です。

書籍は情緒的商品でもあり、機能的商品でもあります。

文学などの散文作品はもちろんのことミステリーなどの娯楽作品はほぼ情緒的商品といえます。これに対し、専門書や実用書、図鑑、語学書などは機能的価値が不可欠です。しかし、後者でも、まるで情緒性がいらないか、というとそうではありません。図鑑などはどんなイラストかによって、まるで印象が違います。専門書に書かれていることが、のちの人生に大いに影響を与えたなどというのは珍しいことではありません。実用書としての料理本に母の手料理を投影することもあるわけです。

そのような情緒性にさらに書体や図版、装幀、デザイン、紙の手触りなどが加わり、情緒性を高めているのが紙書籍です。

今後、情緒的価値を提供し続けられる出版コンテンツとは何か? 本を作る側も売る側もそれをよく考えないと、過剰な価値を提供することとなり、いずれは読者に飽きられてしまいます。

一方、機能的価値を提供するなら、これからは電子書籍で十分という状況へとなっていくでしょう。検索やリンク、ブックマークなど、ウェブ技術がもれなく搭載されているからです。

いずれにしても読者にどんな価値が提供できるのか、その定義、再定義から考え直さなければいけない時代となりました。

コンテンツを保有している出版社はそれが賞味期限ぎれとならないうちに、自らの事業や価値の再定義を急ぐ必要があると思います。

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