前回の本屋さんの続きです。
おそらく私が小学5年生頃のことです。お正月にお年玉をもらい、さて何を買おうかと思っていたときのことです。当時は草野球に夢中だったので、一番欲しいものといえば新品のグローブでした。
しかし、子供のお年玉ではさすがに足りません。
自宅の近くの商店街をふらふら歩いているうちに何げなく本屋に入りました。ジャポニカ百科事典を届けてくれた主人の店です。
狭い店を一通り眺めたのち、欲しい本がないことに気づきました。
しかし、子供心に何も買わないで店を後にするには、申し訳がないという気持ちがありました。ちょうどポケットにはお年玉が入っています。
何か買えそうなものがないかどうか探したところ、一番安い文庫本に目が留まりました。川端康成の『雪国』です。今でも同じ色ですが、新潮文庫の濃紺の背表紙にシロ抜きで150と書いてありました。
『雪国』を持ってレジに行くと、主人が声をかけてきました。なぜか「野村くん」と名前を呼ぶのです。
「君には早い」
一言いわれ、私は店を出るしかありませんでした。
今、同じことを本屋さんでやってみたらどうでしょう。小学校5年生が本屋で『雪国』を買うのです。おそらく100%の子供が購入できるのではないでしょうか。
本も近所のお店の人も今よりずっと身近にあった時代の話でした。