Column & interview

インタビュー

作家と仕掛けるプロモーションと電子書籍
NPO法人日本独立作家同盟 理事長 鷹野 凌 氏

出版不況と言われて久しい現在でも、右肩上がりで市場規模を拡大し続ける電子書籍業界。とはいえ近年ではその伸びに鈍化傾向もみられ、課題も山積しているのが現状です。今後、電子書籍ビジネスはどのような戦略でのぞむべきなのでしょうか。NPO法人日本独立作家同盟理事長の鷹野凌氏に、2017年の電子書籍市場の概況や今後の電子書籍業界、そして書き手側からみた市場の状況などについて聞きました。

2017年の電子書籍市場は?

市場規模は鈍化傾向に“文字モノ”は電子化されていない?

はじめに、2017年の電子書籍の市場概況について教えてください

出版科学研究所の発表で、2017年の電子書籍の市場規模は前年比16%増の2215億円という結果になりました。内訳をみると、電子コミックが同17.2%増の1711億円、文字モノが12.4%増の290億円、電子雑誌が12%増の214億円。15~16年に比べると、成長はやや鈍化しているという現状ですね。今、紙のコミックスの売り上げが非常に減少しており、前年比は13%減と急落を起こしています。数字でみると、雑誌をのぞいた電子コミックスの売り上げが、紙のコミックスの売り上げを逆転していることが分かります。

 電子書店の方にお話を伺って、「なるほど」と思うのは、「電子だと既刊が売れる」ということ。過去の膨大なラインアップが、ストア全体の中でかなりのボリュームを占めているわけです。実際、「LINEマンガ」や「コミックシーモア」などの電子書店では、8割が既刊です。いわゆる“ロングテール”ですね。一方、紙の場合は、新刊書店では新刊とベストセラーしか置かないのが現状。そう考えると、電子書籍の市場は拡大し続けていますが、新刊に関しては食い合っていないのではないか、ということが言えると思います。

紙のコミックスが売れなくなっているということは、すなわち新刊が売れなくなっている、ということでもあります。出版科学研究所の発表では、紙のコミックスの不振について、過去のヒット作の連載終了や、映像化によるブーストがかからなかったことなどが原因として挙げられています。爆発的なヒットの有無によって市場規模は大きく変わってきますので、これはもっともだと思います。

紙のコミックスの急落について、私が一番大きな要因だと思うのは、「ほかの娯楽に時間を奪われている」ということ。つまり可処分時間が奪われているということです。たとえば、今はスマートフォンでソーシャルゲームを楽しむ人が多く、漫画のライバルとなっています。特に漫画誌は、ゲームによる影響をもっとも受けているのではないでしょうか。漫画誌はもともと、電車の駅から駅への移動時間など、隙間時間にひとつの作品を読み切れるようにページ数が設計されているのですが、今はそこがゲームに奪われてしまっています。漫画誌というのは本来、認知媒体。作品が世の中に出ていることを認知させる媒体なので、たとえ雑誌の売り上げは赤字でも、認知を取ることができればコミックスで稼げました。でも、今や漫画誌で認知が取れなくなってしまっています。そうした背景を考えると、現在、大手出版社がアプリで作品を無料で宣伝し、認知を取ろうとしているのは非常に正しい選択だと思います。

市場規模がやや鈍化しているのはなぜでしょうか?

過去の作品の電子化が一通り終わった、ということではないかと推測しています。特にコミックスについては、作家が「電子化したくない」とおっしゃっているもの以外は、概ね電子化が完了しています。逆に、文字モノは全然進んでいません。本当に、びっくりするほどありません(笑)。もちろん、大ヒットした作品や、大手出版社の作品などは電子化されていますが、たとえば過去の名作や、比較的タイトルの知られている本でも電子化が進んでいません。

では、なぜ電子化しないのか。端的に言うと、やはりコストの問題が大きいのです。たとえば漫画の場合は、スキャンして画像を整えるという作業で電子化ができてしまいますが、文字モノになると、作品がテキストデータで残っていない限り、手入力か、文字を画像データとして読み取り文字コードに変換するOCR(光学的文字認識)という技術でテキスト化しなければなりません。漫画で実践されているように、画像化する手法もありますが、最大手のAmazonが「読者の読書体験を損ねる」という理由で、それを拒否しているという事情があって難しいのが現状です。

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